レポート紹介 (Priestley et al. 2025)
Understanding present day natural catastrophe risk using large ensembles of weather data Matthew Priestley, David Stephenson, Adam Scaife and Daniel Bannister, 2025: Willis Research Network Newsletter 学術論文ではなく,レポートの紹介. 自然災害リスクの評価は,保険業界や企業のリスクマネジメントにおいて不可欠である.大手の保険ブローカー兼リスクコンサルティング企業である WTW(Willis Towers Watson)は,科学的知見を実務に結びつけるため,最新の気象・気候データを用いたレポートを定期的に発表している.本レポート “Understanding present day natural catastrophe risk using large ensembles of weather data” は,巨大アンサンブル気象データを使って,「現在の気候条件下でも,観測史を超えるような極端な自然災害が起こりうる」可能性をあぶり出す試みである.以下では,その内容とともに,学術論文とは異なるこの手のレポート特有の文体や構成の特徴にも触れてみる. ~~~ 0.WTWとはどのような会社か(すべて筆者による;1以降はレポートの内容による) WTW(Willis Towers Watson)は,ロンドンに本社を置き,世界140以上の国・地域で事業を展開する保険ブローカーのグローバル大手のうちの1社である.主な業務は,保険および再保険の仲介,企業リスクの定量化と管理支援,アクチュアリーサービス,資本管理・金融リスク分析など多岐にわたる.自然災害リスクの評価は同社の中核サービスであり,気象災害や極端現象に関する科学的知見を実務に応用するための取り組みが重視されており,気象学者,データサイエンティスト,アクチュアリーが多く在籍し,気候モデル,統計解析,大規模データ処理を用いたリスク分析を得意とする. 「自然災害レビュー」を定期的に公開 したりもしている(しかも日本語対応).このような背景から,レポート文章には「科学的に正確でありつつ,ビジネスの意思決定者にも即座に意味が伝わる」よう...