コラム紹介 (Zolghadr-Asli, 2025 Nature)

What an angry exchange with a reviewer taught me about arrogance and humility

研究論文ではなく,Nature誌の"Career Column"のコラム.


本稿では,ある研究者が論文査読プロセスにおける手厳しいフィードバックへの感情的な対応とその結果としての論文リジェクトという経験を通じて,学術研究における傲慢さの危険性と謙虚な姿勢の重要性を学んだ過程について記述されている.

論文を書いて投稿するというプロセスを始めたばかりの頃は,特に同じようなことを感じると思う.今まさに査読者に「怒り」を感じている方,これから感じるであろう方にとって,きっと有益だろう.


2017年,テヘラン大学で水工学の修士号を取得した筆者は,研究者として順調なスタートを切り,複数の共著論文を発表するなど,自身の能力に強い自信を持っていた.そのような状況下で,ある著名な学術雑誌に論文を投稿した.

数ヶ月後,査読結果が通知された.多くの査読者からは肯定的な評価や建設的な提案が寄せられたが,一名の査読者(以下では査読者2とする)からは,論文の特定部分に対して厳しい指摘がなされた.

筆者は当初,フィードバックに基づいて論文を修正する意向であった.しかし,査読者2のコメントのトーンや,筆者が重要と考える貢献点が看過され,筆者が些末と判断する点が指摘されたと感じたことから感情的になった.その結果,筆者は自身の正当性を主張するため,詳細かつ長文の反論を作成した.その反論は,建設的な対話よりも自己の主張を優先する防衛的かつ攻撃的な色合いを帯びたものとなった.

共著者や指導教官からはトーンの緩和を助言されたものの,筆者は反論をほぼ修正せずに提出.結果として再度の修正要求を受け,最小限の修正で再提出したが,最終的に論文はリジェクト(不採択)となった.


このリジェクトという結果は,筆者にとって大きな転機となった.「議論に勝利する」という短期的な目標に固執するあまり,フィードバックを真摯に受け止め,建設的な対話を行うことの重要性を見失っていたことを認識した.筆者の対応が,査読者の抵抗感を増大させた可能性も否定できない.


この経験から筆者が得た重要な教訓は以下である.

・ 批判的フィードバックは,研究を改善するための機会と捉えるべきである.

・ 自身の研究成果を擁護することと,あらゆる反対意見を退けることは同義ではない.

・ 真に生産的な研究者は,自己中心的な感情に左右されることなく,批判的な意見交換を行う能力を有する.

・ 厳しいフィードバックに直面した際は,感情的な反応を抑制し,客観的にその妥当性を検討する必要がある.

・ 謙虚さと自信の適切な均衡を保つことは困難であるが,研究者にとって極めて価値の高いスキルである.


その後,筆者は査読者2の指摘の一部を論文に反映させ,別の学術雑誌に投稿し,受理された.しかし,論文の出版そのものよりも,この一連の経験を通じて得られた新たな視点と,研究者としての望ましい姿勢に関する深い洞察の方が,筆者にとってはるかに大きな収穫であった.


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査読プロセスには色々な問題があることが指摘されており,本稿の内容はあくまで「好意的解釈」の側面があるのだが,研究者として生きていくことを考えると,この記事に書かれていることは有益であると言えるだろう.

相手を論破することが結果に繋がるとは限らない.むしろ,そうならないことの方が実際の生活では多い(営業などがまさにそうだろう),という点は意識されるべきだと思う.

相手を論破して自分の正しさを証明しても相手がモノを買ってくれなければ意味がなく,相手にモノを買ってもらうのに相手を納得させる必要はない(「交渉術」という観点では,むしろ混乱させたほうが良いくらいである).




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