コメンタリー紹介 (Goda et al. 2025 Nature)

Japan can be a science heavyweight once more — if it rethinks funding


研究論文ではなく,Nature誌のCommentの記事.


本稿では,衰退した日本の科学技術力再興のために何が必要かを述べている.特に,日本の研究機関に所属する科学者・技術者の視点から,政府および資金配分機関に対し,学際的研究支援の強化を求める5つの提言を行っている.

日本の科学技術力について語る前に一読するに値する記事だと思う.


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日本の科学技術力再興への提言:学際的研究への資金配分改革の必要性

CRISPR遺伝子編集技術やAIによるタンパク質構造予測など、現代の大きなイノベーションは学際的研究から生まれている。気候変動、生物多様性の損失、健康格差といった地球規模の課題解決も、多様な分野を繋ぐ洞察に依存。しかし、多くの国で学際的研究は依然として軽視されがちである。


現状の課題:日本の学際的研究支援の遅れ

英国や米国などが学際的研究への資金配分を強化しているのに対し、日本の資金配分機関は依然として工学や化学といった個別の専門分野内の研究を主に支援している。この結果、日本における学際的研究の資金は著しく不足し、画期的な成果を生み出す機会を逸していると指摘されている。過去20年で、世界の引用論文トップ10%に占める日本の割合は6%から2%へと低下しており、研究開発力の低下は明白である。


変革への5つの提言

①「プロジェクト」から「人」への資金配分転換

日本の資金配分機関は、プロジェクト単位の支援から、才能ある研究者個人への支援へと軸足を移すべきである。ハワード・ヒューズ医学研究所(HHMI)のインベスティゲーター・プログラムやドイツのマックス・プランク協会のモデルは、長期的な視点での研究者支援が画期的な発見に繋がることを示している。沖縄科学技術大学院大学(OIST)の成功事例は、研究者中心の資金配分が日本でも有効であることを証明している。OISTは、学際的連携を重視し、教員への柔軟なコアファンド提供、共用施設・技術スタッフの無償利用などを通じ、Nature Indexで国内トップの研究機関と評価されているのである。


②ハイリスク・ハイインパクトなプロジェクトへの挑戦

学際的研究はリスクが高いと見なされがちであるが、米国防高等研究計画局(DARPA)のように成功率50%を見込む「ハイリスク・ハイインパクト」な資金配分モデルを導入し、「失敗」したプロジェクトからも貴重な知見が得られることを認識すべきである。既存の資金を再配分するのではなく、専用のプログラムを通じて新たな資金を割り当てる必要がある。


③助成金審査パネルの多様化

資金配分機関の意思決定層(専門分野、経歴、性別、年齢、国籍、文化など)の多様性を確保することが、学際的研究の推進には不可欠である。移民の役割も認識すべきである。


④大学研究室への資金支援強化

日本の研究室は慢性的な資金不足にあり、インフレや運営コスト上昇で財政的負担が増大している。特に学際的プロジェクトは高コストになりがちである。2022年に開始された大学ファンドは不十分であり、対象拡大と制限緩和が求められる。また、大学自身も寄付や資産運用による資金調達努力が必要である。政府は寄付を促す税制改革も検討すべきである。


⑤単年度予算主義からの脱却

日本の財務省による単年度予算・資金支出の慣行は、学際的プロジェクトの成長と持続性を著しく制限する。資金配分機関や大学は、5年を超えるような複数年グラントを増やし、従来の専門分野の枠に縛られない柔軟な資金管理を可能にすべきである。


これらの提言を実行することで、日本はよりダイナミックな研究文化を醸成し、再び世界の科学技術をリードする存在となり得ると期待される。


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Nature Asiaに、このコメンタリーに関する日本語の記事が出ているので、こちらもどうぞ。

日本の科学研究を改革するには「人」への投資が不可欠だ





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