コラム紹介 (Ulker, 2025 Nature)

How I honed my biopharma dealmaking and business-development skills after my PhD


研究論文ではなく,Nature誌の"Career Q&A"のコラム.


本稿では,フィリッポ・ムリナッチ氏の経歴をベースに,博士号取得者がバイオ医薬品業界で最高事業責任者(CBO)として成功を収めるためのキャリアパス,CBOの職務,ならびに必要とされるスキルセットについて概説している.


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まずムリナッチ氏の簡単な経歴について.

ムナリッチ氏は化学で修士号を取得後,バイオテクノロジー企業での研究員としての経験を経て,製薬科学の博士課程に進学し専門性を深めた.博士号取得後,MBAを取得し,ビジネス戦略・マーケティング・財務等の知識を習得.

その後,ロシュ社にてグローバル事業開発,ライセンス業務に従事.特に生物学的製剤とオンコロジー分野で経験を積んだ.トランザクション業務を通じて,科学的知識に加え,交渉術,ネットワーキング,法務知識等のソフトスキルを実務で習得.ディールメイキングに関するスキルセットを構築していった.

フィロジェン社でライセンサー側の事業開発・ライセンス責任者を務めた後,バシリア・ファーマ社を経て,2022年にアラーリス・バイオテック社のCBOに就任.同社は2023年,大鵬薬品工業に大型買収された.



バイオテクノロジー企業のCBOの職務

CBOは多岐にわたる職責を担う.

企業代表:製薬業界に対する企業の顔としての役割.

資金調達・提携交渉:外部投資家の誘致,大手製薬会社との提携交渉(特に財務・法務面)の主導.

情報管理:データルーム内の機密情報(財務・法務文書、各種データ)の維持・管理.

その他:デューデリジェンス対応等.


成功に必要なスキル

ムリナッチ氏は以下のスキルセットの重要性を指摘している.

  • 専門スキル:科学的知識,業界知識
  • ビジネススキル:戦略,マーケティング,財務,法務
  • ソフトスキル:交渉術,ネットワーキング,自己主張力,他者視点での思考力

これらのスキルは,学術的プログラムに加え,実務経験(OJT),特に多様な専門性を持つ同僚との協働を通じて培われる.


若手研究者への提言

同様のキャリアを目指す若手研究者に対し,以下の点が重要であると助言している.

  • 交渉相手の視点を理解する能力の涵養
  • ソフトスキルの積極的な習練
  • 広範な人脈の構築
  • 交渉力・影響力を高める機会の探索
  • データ分析能力の向上

研究室での業務と比較し,ライセンス業務は新技術や治療法を俯瞰的に捉え,科学の最前線を学ぶ機会を提供してくれる点を強調している.

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ムリナッチ氏のキャリアは,科学的専門性とビジネススキルを融合させ,バイオ医薬品業界で成功を収めた一例として,アカデミアから産業界へのキャリア移行を考える研究者にとって,有益な示唆を与えるものと言えそうである.

理系大学院から民間へ行き,理系の専門性以外のスキルを身に付けてキャリアを構築する,というのは利に敵っていると思う.何かしらの資格(MBAでも良いし,PMPみたいなものでも良い)を取得して,実務経験を積むことで,研究だけでは身に付けられない幅広い視点を得られるだろう.(あと,グローバル企業で働くならどこかで博士を取りたいのだが...)





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