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4月, 2025の投稿を表示しています

論文紹介 (Randall and Emanuel, 2024 BAMS)

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The Weather–Climate Schism Randall, D. A., & Emanuel, K. (2024). The weather–climate schism.  Bulletin of the American Meteorological Society ,  105 (1), E300-E305. 短い論文,というかエッセイ。 shismという単語は見慣れないが「分裂」という意味。「宗教団体の分裂」という意味で主に使われるらしい. この論文は,問題提起をするものである.その問題とは アメリカの大気科学コミュニティでは,天気の研究者と気候の研究者の間に長年にわたる分断が存在し,学術機関や学会,さらには資金提供機関にまで及んでいる.この分断は,相互理解の欠如やステレオタイプによって悪化していて,科学の進歩を妨げている. というものである. この 天気-気候の研究者間の分断を修復することで,相互 協力により双方の研究にとって大きな利益がもたらされると考えられるので,その議論のきっかけとして,このエッセイでは分断の歴史を記述し,解決策を提案している. ~~~~~ まず,気象と気候の研究の違いはどういう点にあるのだろうか. 主に時間スケールでこれらは分けられると考えられる.このエッセイでは, 気象の研究は,10日程度以下の時間スケールでの気象の理解と予測に重点を置いているが,気候の研究は,気象変数の統計的振舞いを理解し,それが内部変動や外部強制によってどのように変化するかを扱うものである,と書かれている.これはそうだと思う. そして, このエッセイの2段落目にかなりダイレクトなことが書かれているのだが,簡単に訳してみると, 特に米国では、比較的小規模・短い時空間スケールに焦点を当てた気象研究を,範囲が狭く,過去と将来の気候変動という壮大な問題から切り離されているとみなす気候科学者がいる.一方で,気象科学者の中には,気候科学者は気象について無知であり,気候科学は現在の観測では評価できない将来の気候変動に関するシナリオに基づく「予測」に過度に重点を置いていると考えている者もいる.このような不幸な固定観念は,特にアメリカで広まっている.こうした固定観念が,アメリカにおける地球システム科学の進歩を遅らせている. こんな感じである...

プレスリリース (「南岸低気圧」の活動が春に活発になるメカニズムを解明)

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筆頭著者として出版した論文について,プレスリリースを出しました.  「南岸低気圧」の活動が春に活発になるメカニズムを解明 https://www.tsukuba.ac.jp/journal/biology-environment/20250416130000.html (筑波大学と東京大学先端科学技術研究センター,京都大学防災研究所の共同リリースです) 本成果は科研費(若手研究)で立てた問いに答えるものです。 論文情報 Okajima. S., H. Nakamura, A. Kuwano-Yoshida, R. Parfitt (2025): Mechanisms for an Early Spring Peak of Extratropical Cyclone Activity in East Asia. Journal of Climate, 38(9), 1981–1997. Journal Site

論文が出版されました (Okajima et al. 2025 JClim)

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筆頭著者として執筆した論文が、Journal of Climate誌より出版されました。 東アジアにおける春先の低気圧(所謂「南岸低気圧」)発生頻度のピークについて,中国南部から東シナ海にかけての下層ジェット気流の発達と前線頻度の増加が重要なメカニズムであることを明らかにした論文です.冬季から春にかけての東アジアにおける非断熱加熱の増加がこの下層ジェット気流を強化し,結果として春先の低気圧発生頻度と降水量のピークに寄与していることを示唆しました. 論文情報 Okajima. S., H. Nakamura, A. Kuwano-Yoshida, R. Parfitt (2025): Mechanisms for an Early Spring Peak of Extratropical Cyclone Activity in East Asia. Journal of Climate, 38(9), 1981–1997. Journal Site  

学術変革領域研究「暴れる気候」領域会議 2025

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2025/4/11-4/13 @福井県 年縞博物館・縄文博物館 学術変革領域研究(A)『「暴れる気候」と人類の過去・現在・未来』の第2回領域会議に参加し、気候モデル班(C01)の進捗等に関する報告の一部を行った。 (領域会議に先立ち、気候モデル班の班会合を4/2に気象研にて行い、領域会議での方向性を確認した) 気象研究所 福井に来るのは25年くらい前に若狭?に行って以来だと思う。 4/11は水月湖への巡検と年縞博物館の見学。水月湖と年縞博物館は三方方面にあるので、敦賀駅からバスで移動。山頂の公園からは水月湖周辺の地形を一望することができ、その特徴が非常に分かりやすい。 バスツアー(ガイド:中川代表) レインボーライン山頂公園へ向かうリフト リフトが怖い人?向けのゴンドラもある レインボーライン山頂公園から水月湖方向を望む。この日はあいにくの霧 願いを書いて投げました.内容はナイショ 水月湖湖畔に採掘現場の方向を示す標識があるのだが,その向きが間違っている!ということで修正する当事者たち.そもそも,どの掘削のことなのだろうか. 年縞博物館.建造物としてかっこいい 年縞博物館の2階ギャラリー 光るステンドグラスがかっこいい.個人的にはどこか「乱流屏風」を想像させる. 花粉のレプリカの前で解説 4/12からは領域会合。年縞博物館内に十分な広さの会議室が無いので,同じ縄文ロマンパーク内の縄文博物館の講座室を使わせていただいた. 今回の参加者は40-50人、公募研究の方などが加わり、前回の領域会議よりかなり増えたとのこと。 会場の様子 人と自然の関わり,考古学的視点,年縞の研究そのものなど,各班から多彩な研究の進捗やアイデアが出された. その後,夜に懇親会. 年縞SAND(簡易版;カフェで注文すると年縞の掘削作業をイメージしたスタイルで出てくるそうです) 年縞博物館のギャラリーで懇親会を行うという海外スタイル 4/13(2日目)の午前にC01班の時間があり,その一部で進捗やアイデアなどについて話した. 様々なコメントやサジェスチョンをいただく.メキシコは北米(※). その後,マヤ考古学と年代学に関する発表と議論が行われる.14Cに関する議論など,非常に新鮮な内容があって勉強になるのに加え、考古の研究者の研究に関する様々な側面の考え方の違いを見つけることができるのは興味深い. ...

論文紹介 (Crameri et al. 2020 Nat. Comm.)

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  The misuse of colour in science communication Crameri, F., Shephard, G. E., & Heron, P. J. (2020). The misuse of colour in science communication.  Nature communications ,  11 (1), 5444. この論文は普通の研究論文ではなくて,研究論文を書くための方法を論ずるタイプの論文である.具体的には, ・ 論文などにおいて,色を科学的に利用するための簡単なガイドの紹介 ・ 視覚的に正しいデータバリエーションを示し,複雑さを軽減し,色覚異常の人々にとって理解しやすい カラーマップに関する議論 が展開されている. 虹色のカラーマップや赤緑のカラーマップは 「カラー ユニバーサル デザイン」でないという認識が近年は広まってきているが,そのような(それらに限らないが) データを視覚的に歪めたり,色覚異常の人に読めない カラーマップの使用を避け,より適切なカラーマップの使用を呼びかけている. 短い論文ではない(10P)のでさっと読むというのは厳しいかもしれないが,考え方としてBOX 2, Fig. 3, Fig. 4あたりを眺めてみて,Fig. 6を頭の片隅に入れておく,というのは有益(少なくとも損はしない)のではないかと思う. 最 近のジャーナルの投稿ポリシーを読むと,論文中の図がカラーユニバーサルデザインであることを推奨している場合が多くなっているので,仮に今は何もせずに済んでいたとしても,いずれ対応しなければいけなくなる日が来ると思われる. なお,自分で作った図がカラーユニバーサルデザインと言えるかどうかは,スマートフォンのアプリで確認できる.またカラーユニバーサルデザインの図や掲示物を作るために推奨される配色を紹介しているウェブサイトもある.これらを利用するのが便利(私はそうしている).